企業がGitHubを導入する際、開発効率の向上と同時に、強固なセキュリティ基盤の構築は不可欠です。特にGitHub Enterpriseプランは、組織の規模やコンプライアンス要件に対応するための高度なセキュリティ機能を提供します。
本記事では、GitHub Enterpriseの導入を検討している企業向けに、安全な開発・運用に欠かせないセキュリティ機能と活用例について解説します。
GitHub Enterpriseが提供するセキュリティ機能
GitHub Enterpriseは、組織レベルでのセキュリティ管理を可能にする、以下の主要な機能を提供します。
SAML認証とSCIM
SAML認証は、企業が利用するIDプロバイダ(Okta, Azure ADなど)を使ってGitHubへの認証をSSO(シングルサインオン)化する機能です。また、SCIMは、IDプロバイダと連携してユーザーの追加や削除を自動化します。
従業員が退職する際、IDプロバイダ上のアカウントを無効化するだけで、GitHubへのアクセス権も自動的に削除されます。これにより、退職者による不正アクセスを防ぎます。従業員数が多い、あるいは退職者の管理を厳格に行う必要がある企業におすすめです。
監査ログ
組織内のあらゆるアクション(リポジトリ作成、権限変更など)を詳細に記録し、コンプライアンス要件を満たす上で不可欠な機能です。
機密情報を含むリポジトリが誰によってクローンされたか、あるいはメンバーの権限がいつ変更されたかなど、特定のアクションを追跡し、セキュリティポリシー違反の有無を確認できます。これにより、内部からの情報漏洩リスクを監視できます。情報セキュリティ監査が定期的に行われる企業や、セキュリティインシデント発生時の原因究明を迅速に行いたい場合におすすめです。
コードのセキュリティを強化する機能
GitHub Enterpriseは、コード自体に潜む脆弱性を早期に発見・対処するための高度なツールを提供します。
CodeQL
セキュリティ研究者が作成したクエリを使って、コードベース全体を網羅的に分析し、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングなどの深刻な脆弱性を検出します。
新たな脆弱性が発見された場合、CodeQLのクエリを使って過去のコードベース全体をスキャンし、同じパターンで書かれた脆弱なコードがないかを即座に特定し、修正することができます。大規模なコードベースを持つ企業や、セキュリティの専門家がいないチームにおすすめです。
Dependabot
利用しているライブラリやフレームワークに脆弱性が見つかった場合、自動でアラートを通知し、修正版へのアップデートを促します。
開発中のアプリケーションで利用しているライブラリに重大な脆弱性が見つかった場合、Dependabotが自動的にプルリクエストを作成し、安全なバージョンへのアップデートを提案します。多くの外部ライブラリを利用するプロジェクトや、サプライチェーンリスクを体系的に管理したい場合におすすめです。
Secret scanning
リポジトリに誤ってコミットされたAPIキーやパスワードなどの機密情報を検出し、通知します。
開発者が誤ってAWSのアクセスキーをパブリックリポジトリにプッシュしてしまった場合、Secret scanningがそれを検知し、キーを自動的に無効化してくれます。APIキーや認証情報を多く扱うプロジェクトや、ヒューマンエラーによる情報漏洩を防ぎたい場合におすすめです。
組織として取り組むべきセキュリティプラクティス
GitHub Enterpriseの機能を最大限に活用するためには、組織全体で統一されたセキュリティポリシーを策定し、運用することが重要です。
ブランチ保護ルールの徹底
重要なブランチへの直接プッシュを禁止し、プルリクエストによるレビューを必須とする設定です。
mainブランチへのマージには最低2名のレビューを必須とするルールを設定することで、コードの品質を担保し、バグやセキュリティ問題の混入を防ぎます。 複数の開発者が関わるチーム開発で、コードの品質を均一に保ちたい場合におすすめです。
アクセス権限の最小化
各メンバーに必要最小限のアクセス権限のみを付与し、不必要な権限を持つアカウントをなくすという原則です。
開発チームごとにアクセス可能なリポジトリを制限し、プロジェクト外のコードにはアクセスできないように設定することで、情報漏洩のリスクを減らします。複数のプロジェクトが並行して動いている、または機密性の異なるデータを扱うプロジェクトにおすすめです。
APIキーの集中管理
GitHub ActionsでCI/CDを構築する際、外部サービスのAPIキーをGitHubのSecrets機能に登録し、開発者が直接コードに書き込まないようにすることで、機密情報の漏洩を防ぎます。自動化されたワークフロー(CI/CDなど)を多用するプロジェクトで、認証情報を安全に管理したい場合におすすめです。
GitHubセキュリティの総括
GitHub Enterpriseは、単なる開発ツールではありません。それは、企業の成長とセキュリティを両立させるための戦略的な投資です。
本ガイドでご紹介した高度なセキュリティ機能は、複雑化する開発環境におけるリスクを最小限に抑え、コンプライアンス遵守とチームの生産性向上に貢献します。これらの高度な機能と、組織的なプラクティスを組み合わせることで、セキュリティと開発効率の両立を実現できます。
GitHub Enterpriseへの移行を検討する際は、これらのセキュリティ機能が自社の要件にどのように合致するかを評価することが、安全な開発環境を構築する鍵となります。GitHub Enterpriseへの移行は、貴社の開発基盤をより強固にし、将来にわたって安全なソフトウェア開発を可能にするための重要な一歩となるでしょう。